ああ正妻
集英社
●日刊ゲンダイ2007年5月12日 掲載
【HOTinterview】
本物の“悪妻”を描いた快作で話題 姫野カオルコさんに聞く
実在の夫婦がモデル。個人を特定できないように工夫しました。

姫野カオルコ著「ああ正妻」(集英社 1600円)は、現代に実在する本物の“悪妻”をものの見事に小説化した快作だ。
悪妻とは何かは、本作の主人公夫婦に起きる事象、夫婦の歴史を読めば一目瞭然。男にとって他人事ではすまない、悪妻のすべてを網羅する恐るべき小説だ。

――プロローグでいきなり“これはすみからすみまで、ほんとうにあった話です”とくる。語り手も著者の姫野さん自身と思われる瓶野比織子(かめのひおるこ)で、主人公の小早川正人の妻・雪穂の悪妻ぶり、行状に怒り、相当な義憤を抱いているようだ。

「実在するご夫婦のモデル小説ですから、ありったけの技術を駆使して個人が特定できないよう工夫しましたし、私はあくまで冷静に、客観的に描くよう努めています。

主人公の小早川さんとは、作家と編集者の立場でずっと仲が良くて、ご自分の奥さんに関する嘆きをよく聞いていたんですが、とにかく“そんなことを言う、やる妻がいるの”とビックリすることばかりで。

なぜそうなるのか理由を聞くと“そういう理屈が通用する世界じゃないんだよ”となる。まさに小説の題材の世界だと思ったわけです」

――夫の親は拒否し、自分の親とは同居、子育て・お受験をすべてに優先し、夜の夫婦生活も拒否。専業主婦は疲れるからとマッサージを要求し、娘が長じれば母娘で徹底的に父親無視。世の亭主族の苦悩のオンパレードの観もある。

「小早川さんの話は全部、事実です。ただ読まれ方として、専業主婦は馬鹿でヒステリックと思われかねないので、終盤、社会学者の川田教授に夫婦を客観的に分析してもらってもいます」

――最後に小早川は妻に対して、インターネットを使った“逆襲”を試みる。それはあまりにささやかな、拍子抜けしてしまうような逆襲だ。

「基本的に事実です。ただ、こういう悲惨な結婚の実例があるということ、また立場・見方によっては違う様相なのかもしれないと、読み手の方にも想像をめぐらしていただければと。

でもやっぱり、受難の家庭をお持ちの世のお父さんたちは多いんだろうな、というのが私の実感です」

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