大槻ケンヂvs姫野カオルコ
朝日新聞
2004年12月17日
夕刊
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掲載
■大槻ケンヂ
姫野さんの『ツ、イ、ラ、ク』、読みました。
小説は久しぶりだったんですけど、ここ数年で一番の衝撃がありましたね。

「いや、まいった、これーっ」っていう感じです。「田舎は地獄だぁ」って思っちゃいましたよ。

■姫野カオルコ
都会育ちの大槻君に、そこらへんがつたわってうれしいです。

■大槻ケンヂ
最初は「裏・ちびまる子ちゃん」みたいな話なのかなと思って読んでいったらどんどん展開してゆく。

■姫野カオルコ
十代向きの小説だと思い込んでる人がいるんですが、大人じゃないとあの話はしんから楽しめないと思う。大槻君も大人になったということか(笑)

■大槻ケンヂ
たまに姫野さんが、作者つっこみっていうかな、著者自身が炎上してきますよね。「行けー、若者よ」みたいに、作者が物語にせり出してくる。

■姫野カオルコ
「コンドームもできないペニスは発泡スチロール以下の屑(くず)ペニスである」とかってあたりのことかな?
あそこは作者というより、あの学校の中にほんとにいるみたいな気分で若人に活を。

■大槻ケンヂ
僕は東京生まれですけど、主人公の女の子が、自分に通ずるものがあると思った。小学校での自我の目覚めが、ほかの子より早い。

早熟で、クラスの中で異端になっちゃう。僕の場合はサブカルチャーとロックに目覚めちゃった。それはプライドでもあるんだけども、逆にコンプレックスともなる。

■姫野カオルコ
そのうえ絶対に自己陶酔できないときてる(笑)。大槻君のバンドの「特撮」の歌もそうだよね。陶酔しきれず自分を客観視してしまう。

■大槻ケンヂ
『ツ、イ、ラ、ク』には10代前後の、恋と性欲に悶々とする場面が多くありますが、僕はね、人に対して、恋愛感情というか、狂おしい思いを持ったことがないんですよ。

■姫野カオルコ
ほほう。

■大槻ケンヂ
たとえば、女の人にふられたとしますよね。「でも、やったからいいか」と思っちゃう。

もしも寝てなかったら「おっぱいさわったからいいか」。どんどんレベルがさがっていって「まあ、キスしたからいいか」「デートしたからいいか」「飲みに行ったからいいや」……。

最終的には、「まあ出会えたからいいか」と思う。
もしも、声さえかけられなかったとしても、「彼女が生きて元気にしているからいいか」。

■姫野カオルコ
ははは、充分恋しておられるじゃないですか。そんなふうに前向きに考えられる人はストーカーにならないね。

■大槻ケンヂ
どんなにひどい、かっこ悪いふられ方しても、これ、エッセーのネタになるよなあ、と思う。「人間万事、塞翁がエッセーネタ」。

みんなも、ひどいことがあっても、話のネタにすればいい。こりゃ楽だわい。

■姫野カオルコ
私は唯一の趣味が書くことで、それで生きていられるというか、原稿を書くのがつらいと思えない。むしろ書かないでいるのが苦しい。

売れないとそれも苦しいけど。売れるには、通勤電車の中で読めるような、語彙と集中力を要しない話にしたほうがいいんだろうな。

■大槻ケンヂ
そうなんですか。

■姫野カオルコ
音楽も、掃除したりごはん食べながら聞けるものが売れると思う。大槻君の音楽はそうじゃないから……。大槻くんの歌聞くとき、ほかのことできないもん。

■大槻ケンヂ
そう言ってもらえるとうれしいですよ。恋の話に戻るとね、自分のことを振り返ってみると、恋愛をするのは忙しくてテンション上がりまくったときとか、暇なときなんですよね。

暇なときは刺激がほしい。忙しいときは、「今ならアイドルでも口説けるぜ」っていう気になる。なんか、イベントみたいだな。「振られても次があるよ」みたいな感じで執着がない。

■姫野カオルコ
恋愛って主観でしょう。大槻君は、さっきも言ったように常に客観が働くんだよ。

客観といえば、ひきこもっている人は、親に光熱費も食費も住居費も出してもらいながら親に文句言っている自分をどういうふうに客観しているんだろう。

■大槻ケンヂ
あのね、家に引きこもってインターネットばかりやってる人に、ぜひ言いたいことがあるんですよ。

おまえら引きこもりはエリートだよ、と言いたい。少なくとも、あんたたちパソコンできるじゃん。おれ、いまだにできないからね。

引きこもっている人って、なにか自分に自信がないんでしょ?□でも、その点だけはおれには勝ってるじゃないかと。

■姫野カオルコ
自信がありすぎるのでは?
自分を過大評価すると、他人の妥当な、等価的な認知では傷つく。

多面的なものさしで自分も他人も計ると、気持ちのいい自信が持てるようになる。ただ、これが難しいんだよね。私もよく失敗してる。

でも、ひとつふしぎなのは、生物というのはあるていどの年齢になったら親から離れたいという欲求が本能的にあるはずなのに、ずっと親と同じ屋根の下にいられるっていうのは、すごく親が好きなのかな? あ、大槻君も実家の近辺から出てない。

■大槻ケンヂ
いやー、はは。引っ越しが面倒なんですよ。あと住むところを父親が勝手に決めちゃうの。

「ケンヂ、今度はここに住め」「ケンヂ、有名になってきたから、もう少し広いマンションに住め」とか。 面倒くさいからまかせちゃう。

■姫野カオルコ
お父様に大恋愛してるんじゃないの?

■大槻ケンヂ
……話、変えます。
あのね、ひきこもっている男の人に、たとえば、もてないことへの劣等感、女性への恐怖心が原因のひとつとしてあるとするでしょ。犯罪にさえ進んでしまう類の。

そういうのを払拭する技術があるんですよ。バンドをすればいい。自分がそうだったから身をもって証明できる。ロックをやればいいんです。

自分のコンプレックスを歌えば、それでもうロックになってるから。十年ぐらい続けばなんとかかっこうがつくもんなんだ。

■姫野カオルコ
はいはい。

■大槻ケンヂ
ほんとにそうなんですって。楽器なんかできなくていい。僕もできない。メンバーなんて、それこそサイトで募集すればいる。

自殺したい人に、練炭もって仲間が集まってくれる時代ですよ、今は。そんなばかなことをしてないで、メンバー集めてロックをやれ。
歌なんか下手でいい。どうせギターやドラムの音で聞こえないんだから。

■姫野カオルコ
大槻くんの方法がとれない男性は「蓼くう虫も好き好き」って諺を胸にしてください。
その心は、世の中にはいろんな好みの女性がいるので、とりあえず外に出てみて下さい。
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