サイト管理人が独断と偏見で選んだ作品を紹介します。
『レンタル不倫』
角川文庫
2001年発売

まずこの文庫版を買おうかなと思う方は、本屋さんで冒頭の数ページをざっと読んでみるなどということはせずに、読むなら解説(斎藤美奈子)を読んで購入を決めてください。ある意味"つかみはばっちり"なのですが、ヒメノ式の免疫がない人にはちょっと誤解を与えるかもしれない出だしの数ページ。そのあたりを解説でうまく斎藤美奈子さんがフォローしてくださっています。

さて、その解説で斎藤さんが「歴史に残る名言であろう」とおっしゃっているのがこれ。

ペニスとヴァギナの話を、無計画に書けば「衝撃的な文学」と称され、ふつうくらいに書けば「艶やかな文体」と称され、計画的に書けば「ポルノ小説」と称され、ていねいに書けば「ロマンス小説」となり、ぞんざいに書けば「恋愛小説」となる

ただしこの小説「レンタル不倫」(レンタルと書いて不倫と読む、あるいは不倫と書いてレンタルと読むのか)が、上のどれかに該当するというわけではありません。実はこの小説はそもそもペニスとヴァギナの話ではないし、恋愛の話ですらないかも知れません。なにせ主人公の力石理気子は30cm以内に男が不用意に近づくと、無意識に空手の技でもって攻撃してしまうという、まるでゴルゴ13のような女性。対するは80年代のおフランス現代思想的言説で着飾った霞雅樹。しゃべる言葉が延々と"、(句点)”で繋がるエンドレス男。その噛み合わないやり取りの狡猾さに爆笑しつつも、いつのまにか「霞的めんどくさい様式」や、理気子と対極にいる「バレリーナ」の非論理性、非合理性が自分の中にも染み込んでいることにハッと気がついたりします。エンターティメントあるいはラブコメとして読むも良し、ラジカルな恋愛論として深読むも良し、今用語問題で揺れているジェンダーの問題提起として読むも良し、各章の章題になった曲を聞きながらスタイリッシュな物語の構造を楽しむも良し、さまざまな読み方楽しみ方ができる作品です。

『喪失記』『ドールハウス』そしてこの『レンタル/不倫』は、処女三部作としてコアな姫野ファンから根強い支持を得ています。
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