『私小説タイムストッパー』
実業之日本社刊「週刊小説」2000・19掲載
「週刊小説」は2005年現在廃刊

PC版公式サイトのメニュー「著作一覧と作品概要」から「発表順の年表」に進み、文中の
『私小説タイムストッパー』をクリックするとWeb限定配布の作品を読むことができます。またこの年表自体も読み応えあって面白いので、未読の方はぜひチェックしてみてください。

『私小説タイムストッパー』がちょっとわかりにくい場所に置いてあるのは、元々こうしたサイトで発表することを想定して書かれた作品ではないということがひとつ。それからここ何年かファンサイトなどをチェックしていたコアな読者にとっては既読であることも理由のひとつかも知れません。しかしサイト管理を担当する者としては、公式サイトを訪れた方たちにぜひ読んでいただきたいという思いもあって、今回のクローズアップ作品に取り上げました。

さて、作家「姫野カオルコ」はいくつかの誤解を受けています。そのカタカナ四文字の筆名からくるイメージがひとつ。実際に貰ってもいないD賞のことがひとつ。80年代のカルト雑誌「写真時代」に書いていたことなども、主に業界に近い人に誤解されたりする要因かもしれませんね。そうした誤解に対する本人からの直接回答と言ってもよいのがこの『私小説タイムストッパー』です。ただし、これはあくまで小説として回答説明を行なっているものですから、固有名詞をはじめとして具体的な細部については配慮がなされていると思われます。

私は常々思っているのですが、情報というものは出来の悪い伝言ゲームのように一人一人の間違いは小さなものなのに、結果的に元情報のカケラもない別物(偽情報)になることがあります。特にネット上にある雑多な情報に接する者は、それを選択する力や読解力を磨くことが求められる時代になっていますし、机上の勉強では得られない "対情報センス" のようなものを身につけなければ、簡単に偽情報に惑わされ踊らされることになります。その意味で情報のソース(出所)がはっきりしているかどうかは大きなポイントになります。匿名の無責任な情報はある面ネットの面白さを支えるものだったりするのですが、あくまで噂話や井戸端会議的な部分での面白さであって、やはり出所を明らかにした情報とは質が違います。『私小説タイムストッパー』は、あえて私小説とタイトルにつけてあるように、作家姫野カオルコの喜怒哀楽や生活が素直に描写されています。正直読んでいると重い内容に圧倒されますが、そんな中にもジョーク(おやじギャグ)をちりばめてしまう所に、作家というものの業の深さを感じたりします。ツイラク以後の新しい読者には少しわかりにくい所もあるかもしれませんが、そんな人はぜひ『ドールハウス』『喪失記』『レンタル不倫』の三部作も読んでみましょう。


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