いちおう私は戦後生まれである。いちおう、などという言い方を するのは「あなたって戦前の生まれみたい」と、よく人から言われ てきたからだ。育った家をふりかえれば、そこには東京五輪も大阪 万博も関係なく、ずっと太平洋戦争の影が落ちていた。父母に濃く かかり、来訪者の多くにもかかっていたその影は、子供にはひどく 恐ろしかった。が、幼い私が、遠巻きに眺めているだけで、なぜか 励まされる伯母がいた。彼女が高齢になってからは、もっと励まさ れた。なぜだろうと、あらためて思ったのが今作を書くきっかけで ある。
本書はノンフィクションではないが、実在の人間の、戦場での体 験はじめ、実際の体験をもとにした小説である。これまで自分がと ったことのないスタイルなので、性別、年齢問わず幅広い層の読者 の手に、本書がわたってくれるようにと祈っている。
ということで、もちろん戦争は物語の重要なモチーフのひとつではありますが、ハルカさんが飄々と時代を乗り越えて行くにつれ、より大きな物語のメインテーマが起ち現れてきます。それは人が日々生きることの中にある小さな幸せの発見。なんじゃそりゃ、と言われそうですがハルカさんという人はどんな悲惨な出来事や不幸のただ中にあっても、針の先ほどの光を見出す天才なのです。その力はまわりの人間にも影響を及ぼし、実在の主人公ハルカさんに励まされた姫野さんの書いたハルカさんの物語に私たち読者もまた励まされることになるのです。
長編の前作『ツ、イ、ラ、ク』(角川書店刊)とはまったく違ったアプローチだし、表面上は「恋愛モノ」と「昭和の女性年代記」という括りの違いがありますが、意外にヒメノ式的な部分ではブレがなく繋がっていたりします。性別、年齢問わず幅広い層の読者はもちろんコアなヒメノ式マニアも充分楽しめる作品。